2020年2月9日~14日の日程で、INTESALのゼネラルマネージャーEsteban Ramirez氏とINTEMITプロジェクト責任者であるDr.Cristian Seguraを日本に招聘しました。丸山史人教授(広島大学)と今井一郎名誉教授(北海道大学)が同行し、以下の公的機関及び民間企業等を訪問・視察しました。
1.青森県産業技術センター(水産総合研究所)
ここでは日本の養殖カキとチリ南部の養殖ムール貝類の状況を比較し、HAB(有害・有毒藻類ブルーム)による貝毒の影響、及び各国政府が実施するその防除策について協議を行いました。また、海洋モニタリングプログラムを念頭に置いた、HABの貝やサケへの影響について意見交換を行いました。適切なモニタリングを行うため、チリ政府は、サケ養殖業者にブイを使用した海洋モニタリングを実施させる新たな法令を設けようとしています。
※INTEMITはBiblioMit(https://www.bibliomit.cl/)に貝類の環境情報を一元化しており、INTESALはPROMOFI(http://mapas.intesal.cl/publico/)を環境プラットフォームとして開発しています。
2. 東北区水産研究所、宮城県水産技術総合センター
ここでは養殖カキと貝中毒に関する戦略、津波と温度が生産に及ぼす影響、そして有毒藻類の一種Alexandrium catenellaのブルームを引き起こす堆積物の動き、日本のカキと銀鮭、魚の病気について講義を頂きました。
HABは、水温、塩分、栄養分の集中、日照時間といった、いくつもの環境要因に影響を受けます。これらの物理化学的要因に加え、最近の調査では生物学的な要因との関連も示唆されています。
3. サケとカキ養殖場を視察
ここでは、日本とチリのサケ産業の生産戦略の違いについて議論が行われました。また、HABのリスクを最小化する新技術の可能性(水中培養システム等)について検討しながら、ムール貝を育てる仕組みをカキと比較することで詳細に見直しました。
貝の表面に有害藻類が付着している場合、ムール貝が付着している養殖用のロープを水中に沈める対策が考えられます。日本のサケ養殖は生産量を制限し、非常に短いサイクルで生産を行うことによって有機物が自然に還元され、海底での藻類の問題が起きません。これにより、カメラ等で水中管理を行うことなく、海面から魚の動きを観察するだけで、手動の給餌システムを行うことが可能になっています。
4. 全国水産技術者協会
全国水産技術協会の原武史理事にお会いし、チリのサケ・貝類の養殖の様々な課題(生産工程、環境の制約、規制、コミュニティー、HAB等)について意見交換が行われました。
チリではHAB分散の初期段階で微細藻類の水中分布を把握し、後期で海産物の毒性検査等を行っていますが、HABを防止・緩和する抜本的な対策は現在のところ存在しません。
5. 今井一郎名誉教授との協議
今後MACHプロジェクトがどのようにHAB対策に貢献できるのか、その方向性について今井名誉教授(北海道大学)と意見交換が行われ、下記のアイデアが出されました。
・特定のHABを減少させる可能性のあるバクテリアの同定。 HABの動態に応じた、海洋微生物の相互作用ダイナミクスを理解するのに役立つ可能性がある。
・珪藻は渦鞭毛藻類(A. catenellaなど)と競合するため、HABの防止や軽減に役立つ可能性がある。
6. 三井物産株式会社
三井物産株式会社は同社の環境基金を通じてMACHプロジェクトを支援しています。今回の訪問ではチリのサケ・貝類養殖産業のメンバーと三井物産との間で本プロジェクトの進捗状況を共有し、チリのHAB関連の社会的課題や本プロジェクトの重要性について、直接の意見交換を行いました。
7. 駐日チリ大使館
駐日チリ大使のJulio Fiol氏と面会し、魚介類の国内消費増の可能性、更には新しいマーケットを確立するという観点で、チリのサケ・貝類の養殖産業の課題について意見交換を行いました。大使からは日本にとってチリの海産資源はとても重要であること、それについて日本人は感謝の念を持っていることが説明されました。
8. JICA(国際協力機構)、JST(科学技術振興機構)
本邦視察の最後に、MACHプロジェクトを推進・出資するJICAとJSTを訪問し、報告を行いました。この会合では、チリのサケ・貝類産業が実施する海洋毒素の定期的なモニタリングおよび分析に、共同プロジェクトによるHABの防止・緩和策を組み込む可能性について協議を行いました。